プロダクションノート

「自己責任」ってなんですか?

プロデューサー 広瀬凉二

この映画を観てくださる方に私が問いかけたいのは、その一言です。2004年4月、開戦から1年が過ぎたイラク戦争の激戦地ファルージャで人質となった、三人の日本人を苦しめてきたのが「自己責任」という言葉でした。イラク戦争は2001年に起きたいわゆる9・11事件に逆上したブッシュの米国が反米イスラム勢力への報復として一方的に仕掛けたものでした。それは「大義なき戦争」といわれ国際的に反対と非難を浴び、日本の世論も反対が多数を占めていました。しかし当時の小泉政権は開戦を支持し、米軍と同盟軍(英国など)の後方支援と現地の人道支援をするため自衛隊を派遣したのです。

ファルージャのイラク武装勢力が人質解放の条件としたのが、「自衛隊の撤退」でした。日本政府は即座にその要求を拒否しました。三人の釈放か処刑か、期限が迫る中で、政府関係者から発せられたのが「激戦地へ出かけていった三人の自己責任だ。」という声でした。それがメディアに採り上げられ、ネットを通じてヘイトスピーチのような悪意に満ちたバッシングとなっていったのです。

三人は彼らを支援するNGOやイラクの宗教指導者の尽力で釈放され帰国しました。しかし日本で彼らを待ち受けていたのは「国益を損ない世間を騒がせた自己責任をとれ」という非難の嵐でした。

そして9年後私は「映画ファルージャ」をつくりました。それはテレビドキュメンタリーの現場で40年間仕事をしてきた私自身への「自己責任」と思ったからです。自己責任とは誰かに問われるものではなく、「私は自分らしく生きているか?」と自らに問うことだと思うのです。

「ATP若手映画プロジェクト」について

若手映画プロジェクト座長 山口秀矢 理事

 今、テレビ番組制作会社で働く人数は1万人を超えると云われている。しかし、クリエーターたちに、自由闊達な表現と発表の場が与えられているかと問われれば、否、と答えざるを得ない。一般社団法人全日本テレビ番組製作社連盟(略称ATP)は、若手クリエーターの育成事業の一環として、2012年度より「ATP若手映画プロジェクト」を発足させた。

このプロジェクトは、ドラマやドキュメンタリーの映画製作資金の支援を含め、劇場公開の機会を提供。また製作母体となる制作プロダクションとは権利を共有し、コンテンツを国内外に向けて自由に発信する事が出来るシステムを構築。この事により、若手クリエーターたちに夢と希望を与え、ひいては業界全体の活性化を図る、というのが目的である。

ATPの加盟社(現在124社)に広く企画を募集したところ(若手とは企画採択時35歳以下)、一番可能性を秘めた企画提案が、今回の『ファルージャ』であった。

複数回の審査面談の中、当方のいじわるな質問に一回もたじろがす、強いパッションを持ちキラキラ輝いていたのが、監督の伊藤めぐみさん、28歳。AD経験はあるもののディレクター経験なし、まさに初監督。この企画は審査委員全員一致で採択され、伊藤さんは苛烈なイラクの撮影へ旅立っていった。

プロデューサーは数々の名作ドキュメンタリーを創ってきたベテランの広瀬凉二氏。

今回のドキュメンタリー映画は、イラク戦争を舞台に様々な問題が提起されるが<生きるとは何か>という普遍的で根源的なテーマにも迫っている。

心にトゲが刺さる問題作が完成した。

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